しゅちゃの呟き

はいどうも!なぎま家。のしゅちゃです!

Scales

 

 

 

 

  目が覚めてから大きな伸びをひとつして、洗面所で顔を洗う。そんな誰もがするようなルーティーンをこの日も遂行し、生きている限りそれをこなしていくであろう僕を嘲笑うかのように、テレビでは信じがたいASAのニュースが飛び込んできた。

 

 

___速報です。現在、宇宙より巨大な惑星が白き光を放ちながら地球に向かっているとの情報が宇宙管理システムより送られてきました。このままでは5日後には地球と衝突し、地球は消滅してしまうとのことです。あらゆる回避方法を専門家等を交え暗中模索した結果、定かではないがひとつだけ、これなら地球を残す光がみえる策が打ち出されたようです。
それは、

『現在の全世界における人口総数のうち約5分の1の人間の死によって地球と星の軌道をずらす』

と_____

 

 

  仕事だからか、淡々と文字をなぞるアナウンサーの声は耳に届くが、あまりに非現実的な内容のニュースを受け入れることなど出来るはずもなく、まだ喋り足りないとでも言いたげなテレビの電源を切った。どうせどのチャンネルも同じことを流しているだろう。
  もしかすると、スポーツ番組は違うかもしれないな。野球選手が何試合連続ホームランを打ったとか、バスケットボールの試合で起きた大逆転劇など興味がある人間にとっては嬉しいニュースが見れるかも。しかしそれはそれでどうなんだ。仮にも地球消滅の危機が迫っているんだろう。

  現状をまだ理解しきれていない頭で、ニュースへの疑問を整理しながら携帯画面を睨む。睨み返してくるような画面の明るさが目に刺さる。映画の設定でありそうな話にも思えるこの事態を予想していた人はいるのか。地球が無くなるかどうか想像することに意味はあるのか。そもそも地球が消滅することで僕ら生物は大混乱だが、宇宙にとって困ることはあるのか。

宇宙の中にある生命にすぎないこの惑星(ほし)がむしろ今まで何もなかったことの方が不思議だ。いや、僕の知らない場所で実は何度も危機を乗り越えていたりして。なぁ、どうなんだ?
つい数分前に消したテレビ画面に問いかけた言葉は、闇に吸い込まれた。何も返ってこないと、反応を求めるかのようにまたテレビを起動する。女性に人気のスイーツ店でも教えてくれ。知ったところで行かないが。

 

 

 

_____緊迫した現場と中継が繋がっています。
…ただいま都内でも有名な交差点に来ております。これからお見せする映像は大変気分を害するものとなります。特に、小さなお子様や高齢の方、体調の優れない方、またそうでない方でも視聴には十分注意してください。
...ご覧ください。辺りは嵐が過ぎ去ったあとなのか、これからまた嵐が来るやもしれぬ静けさに包まれています。横断歩道には既に人が争ったことが分かる血痕や凶器と思しきものが複数見受けられます。ここは本当に日本なのでしょうか。視覚嗅覚は鉄で鈍り聴覚が研ぎ澄まされた異様な空間にいるようです。地球存続のために打ち出された策ゆえに、人々が各々の考えのもと行動した結果と考えられます。我々もこの場に留まるのは危険と判断し、この中継が終わり次第撤退を考えています。中継をご覧の皆様もどうか行動する際は十分に注意してください。地球と命について一度だけでなく何度も考えてみてください。現場からは以上です。_____

 

 

  画面越しに見た世界は本当に現実なのだろうか。血痕?痕どころか今まさに流れ続けているものではないか。父はこのニュースを見てどう思ったのだろう。僕が起きた時点で家に居ないということは、この報道を見てもなお仕事に向かったということだ。日本人らしいというか、社会に溶け込んでいるとは思うが外に出て大丈夫なのか。いや待て、そもそも本当に地球は消滅の危機なのか?惑星は5日経ったらどう地球に落ちるとか、地球が消滅するほどの勢いや惑星の大きさはどれくらいなのか、気になることが多すぎる。仮に落ちるとして、なぜ人の命を削ることで衝突を避けられるという結論に至ったんだ。地球がダイエットを始めたようにも思えるが、人が死んでも燃やすなど何かしらの行為をしない限り重みは変わらないのではないだろうか。総人口数を減らせばハッピーエンドがやってくるだなんて、その根拠はどこにある。エンドロールは死者の名前で溢れかえることだろう。自分たちの命を軽視しすぎではないか、この世界を守るためといって命を投資しなければならないことが未来につながる礎となるのか。しかしまあ、血が流れたということは、その策とやらに触発されたやつがいるということだ。こんなことが日本だけで起きているとは思えないけれど、世界各地で起きていると考えるのも恐ろしい。そのうち自分の国より他国を潰そうという考えが出てきて戦争につながる可能性がある。その方が地球消滅への1歩を踏み出すようなものだと思うのだが、偉い人達の見解はそうではないのかもしれない。
  街を流れる真紅の涙は、地球の養分になるとでも思っているのだろうか。同じような考えを持つ人間が、僕が住んでいるこの街のなかにもいてもおかしくない。そう思うと外の景色がどうなっているか気になり、カーテンの隙間から外を眺めてみたが、この街にはまだ落ち着いた時間が流れているのだと確認する。その時間がいつ途切れても不思議ではないのだが、僕自身が朝起きてから取り乱すことなく今外を見ていたことにこの世界と自分が別々の場所で互いを監視しているような錯覚に陥る。
  日常を届けるはずの黒いかたまりは、死者への階段をかけ上がりつつある僕達に、機器(嬉々)として自分たちがどこにいるかを知らせてくる。

 

 

________世界の総人口数に変化が起きているようです。僅かではありますが減少しつつあるとの報告がありました。この世界はどうなってしまうのでしょうか。"狂い始めた壊れかけのあやつり人形"のように私は思えてなりません。私が報道で呼びかけることでどんな影響が生まれるか未知ですが、人口が減ることで地球消滅を防ぐだなんてそんなことが出来るのでしょうか。
人口が減るということは、それだけ人が亡くなっているということです。世界の総人口数が減少傾向にあるということは、その分の人間が何らかの形で命を落としたということです。これを恐ろしいことだと思うか、良いことだと思うか。あなたの心は何を見つめていますか。

  速報です。人が橋の上に集まり、集団で川に身を投げ始めたそうです。一般市民の1投稿が多くの目を通して広がり今に至っているようです。________

 

 

 

  人が命を地球に捧げているらしい。1投稿が気になりネットを開いたが、その投稿はもう消されてしまったようだ。しかし、1度世界に生み出されたものは消えても別の場所に移動しただけで、どこかでその後の世界を見ている。だから人は目には見えない何者かに動かされたかのように行動し魅せつける、全ては自分の選択したことであると知らずに。ニュースは続けて川の映像を僕に見せた。普段はきっと違う色で流れていたであろう川の水が赤に染っていた。血を吸うヒルのように感じた。そんなHiruのニュース。あと数時間も経てば、この空も夕日で朱に染まり川はより一層赤みを増すのだろう。肥えた果実は熟れることをしらない。

  彼女は何をしているだろう。このいつ終わりが来るか分からない世界の隅っこで泣いてはいないだろうか。僕の助けを、声を、待っているのではなかろうか。今すぐにでもこの薄暗い部屋を、気味の悪い町を飛び出して彼女の元へ行かなくては。そんな一国の姫を、何を犠牲にしてでも守ってみせる騎士のようなことを考えてみるが、いくら考えたところで僕の助けを待つような女性はいない。よかったと思えばいいのか、悔しさを握り潰せばいいのか分からない。

 

  ずっと不思議に感じていることがある。警察が動かない。自衛隊も動かない。動けないというのが正解なのか。彼らも人間だ。政界は何を求めているのか。上に立つ者がその地位を維持するために下を見るとき、どんな顔をしているんだろう。常に地を見て歩く僕には分からない。
  歯止めが利かない歯車は壊れても回り続ける。全てが許される世界になってしまった。呆気ないほど一瞬で。人間が黒に包まれれば包まれるほど、星は白く光り輝き、僕らの心臓に釘を刺す。

  仮に人口が減り続け地球が助かったところで、残された人々はどんな気持ちを抱いて生きるのだろう。
何事も無かったように世界は回り、時が経てばパズルの1ピースとなるのか。その世界に僕はまだ存在しているだろうか。実際のところ、世界が終わろうと残ろうとどちらでも良いなどと思っている。仮にも此処に住んでいるのだからもっと未来を創造しなくてはならないのではと、どこかの堅物に非難されそうだが何をどう考えればよいか分からぬ僕にはそんなこと知ったことではない。僕が地球のナイト(騎士)的存在だとしたら、もう少し真剣に考えていたのかなぁ。未来がどう転んだとしても物語に終わりはない。僕の好きなものがシュークリームであることも変わらない。

惑星が衝突せずとも明日が来るかも分からぬ世界で、僕はYoruにさよならを告げる。

 


fin.__?